食物繊維とタンパク質を摂る人は、睡眠時間が長かった|4,825人の食事記録が示したこと
食べた物で睡眠時間が変わる?
深夜1時、締切をひとつ片づけた達成感でカップ麺にお湯を注ぐ。あの3分間の背徳感は、たぶん人生でいちばん強力な調味料だと思っています。
問題はそのあとです。ちゃんと6時間半は横になったはずなのに、翌朝の頭がやけに重い。夜更かしをしすぎたわけでもないし、寝坊もしていない。それなのに、目覚ましを止めた手がそのまま布団に戻っていく。
長いあいだ、これは「夜中に食べたから胃が働いてたんだろう」くらいの雑な理解で済ませていました。ところが筑波大学から出たある調査結果を読んで、話はもう少し込み入っているらしいと知ることになります。何を食べたかが、眠りの長さや途中で目が覚める回数と、かなり具体的な形で結びついていた。しかも日本人のデータで、です。
4,825人分の「食事記録」と「睡眠データ」を突き合わせた
調査を行ったのは、筑波大学の国際統合睡眠医科学研究機構(WPI-IIIS)。柳沢正史教授らのチームです。
使ったデータが面白い。食事管理アプリ「あすけん」と、睡眠ゲームアプリ「ポケモンスリープ」。この2つを同時に使っている人が4,825人分いて、その記録を突き合わせたという調査です。平均年齢は36.7歳。結果は2025年1月30日付で『Journal of Medical Internet Research』に載っています。
つまり被験者は、実験室に呼び出されて管理食を食べさせられたわけではありません。いつもどおり晩ごはんを記録して、いつもどおり枕元にスマホを置いて寝ていただけ。片手でポケモンを集めながら、気づいたら大規模研究に協力していた。そういう人が5,000人近くいた計算になります。研究に参加している自覚が薄いまま貢献しているの、なんだか良い話だなと思うのです。
生活の中で自然に積み上がった記録なので、「研究のために1週間だけ健康的な食事をした」みたいな上振れが混ざりにくい。そこがこの調査の強みだと感じました。人を実験室に閉じ込めて食事を管理すれば精度は上がりますが、その代わり集められる人数は数十人が限界です。5,000人近い日本人の日常を、そのままの形で覗けた例はそう多くありません。
もっとも、アプリの記録である以上、入力し忘れや自己申告のブレは残ります。研究チームもこの点は承知のうえで、あくまで「関連が見られた」という言い方をしています。読むときの温度感としては、絶対の法則というより、傾向の地図くらいがちょうどいいはずです。
眠りの足を引っ張っていた食べ方
耳の痛いほうから片づけましょう。報告のなかで、睡眠と好ましくない結びつきを示していた項目は3つありました。
総エネルギー摂取量が多い
要するに食べすぎです。総睡眠時間は短いほうへ、夜中に目が覚める回数は多いほうへ傾いていました。心当たりしかない、という方も多いはず。私もそうです。
一価不飽和脂肪酸が多い
オリーブオイル、アボカド、ナッツ類などに多く含まれる油です。これを多く摂っているグループは、寝つくまでの時間が長め、夜中に目が覚める回数も多めという結果でした。この項目については後ほどあらためて。
ナトリウムが多く、カリウムが少ない
ざっくり言えば塩分過多です。総睡眠時間、寝つき、中途覚醒。3つの指標すべてで好ましくない側に振れていました。
こうして並べると、輪郭がはっきりしてきます。カロリーが多くて、しょっぱい食事。焼肉のあとに締めのラーメンを頼んだ夜のことを、思い出さずにいられません。あれの翌朝、だいたい午前3時台に喉の渇きで一度起きているんですよね。あれは気のせいではなく、記録に残る現象だったわけです。
逆に、眠りと相性がよかった栄養素
ここからは明るい話です。好ましい方向と結びついていたのは、次の3つ。
タンパク質
摂取量が多いグループほど、総睡眠時間が長いという結果でした。報告されている差は36.6分。1時間近く、とまでは言いませんが、30分強というのは体感としてはっきり違う長さです。目覚ましを止めてから家を出るまでの、あの慌ただしい時間帯がまるごと一本増える計算になります。朝にコーヒーを淹れられるか、駅まで小走りになるかの分かれ目、と言ってもいい。
しかも、これは「早く寝る努力をした結果」ではありません。同じように寝床に入って、結果的に長く眠っていたということです。努力の量ではなく、材料の話で30分動く。そこが少し面白いところでした。
食物繊維
今回の調査で、いちばん働き者だったのがこれ。総睡眠時間は長いほうへ、寝つきまでの時間は短いほうへ、夜中に目が覚める回数は少ないほうへ。3つの指標すべてで好ましい側に振れていました。
食物繊維といえば「おなかの調子」の文脈で語られがちですが、まさか眠りの話でMVPを取ってくるとは思いませんでした。野菜、きのこ、海藻、豆類。並べてみると、居酒屋で真っ先に注文候補から外れる面々です。地味なおかずほど強い、という身も蓋もない結論になっています。
多価不飽和脂肪酸
青魚やえごま油、ごま油などに多い油です。寝つきまでの時間と中途覚醒について、好ましい方向との関連が見られました。
同じ「油」なのに、真逆の結果が出ている
さて、さきほど保留にした話です。
一価不飽和脂肪酸は睡眠と好ましくない方向、多価不飽和脂肪酸は好ましい方向。同じ不飽和脂肪酸で、名前も一文字しか違わないのに、結果は正反対でした。
これ、けっこう衝撃的ではないでしょうか。オリーブオイルもアボカドもナッツも、健康の話題では常に主役級の扱いを受けてきた面々です。サラダにオリーブオイルを回しかけながら「良いことをしている」と信じていた人(私です)にとっては、ちょっと座り直したくなる結果でした。
もちろん、これは睡眠という一点だけを見た話です。オリーブオイルが体に悪いという話ではまったくありません。ただ「健康にいい油」という大きな袋にまとめて放り込んでいた自分の理解が、思っていたより雑だったな、とは思いました。油には種類があって、見る角度によって順位が入れ替わる。それだけのことなのですが、それだけのことを知らずにいたわけです。
夜に魚を食べた日と、夜にサラダとナッツで済ませた日。今度から少し意識して比べてみるつもりです。
で、明日の晩ごはんはどうするか
正直なところ、この調査は「これを何グラム食べればいい」というところまでは示していません。あくまでデータの上での関連であって、量の設計図が出てきたわけではない。研究チーム自身も、今後は実際に食事を変えてもらう検証を進めていくと述べています。
それでも、向いている方向くらいは掴めます。
主菜をちゃんと置くこと。魚でも肉でも大豆でもいい、とにかくタンパク質の担当を一皿つくる。豆腐と納豆と卵があれば、火を使わずに成立します。深夜に帰宅した日でも、これなら5分です。
青魚を週に何度か入れること。サバ缶でいい、というのが現代のありがたいところです。缶を開けて器に移すだけで、多価不飽和脂肪酸の担当が片づきます。むしろ移さずそのまま食べても誰も困りません。魚を焼くと部屋が魚の匂いになるという、独り暮らしの最大の障壁も回避できます。
野菜、きのこ、海藻、豆類を足すこと。食物繊維が今回の主役だったことを思えば、味噌汁の具を増やすだけでも意味があります。具だくさんの味噌汁は、汁物のふりをしたおかずですから。
塩分については、減らすより足す方向で考えるほうが続きます。ナトリウムとカリウムの比率が問題なら、カリウム側を増やすという手もある。野菜、バナナ、海藻あたりです。ラーメンを我慢するより、翌日の朝にバナナを1本足すほうが、たぶん現実的でしょう。
そして腹八分。これがいちばん難しい。世の中の健康法はたいてい「足す」より「引く」で挫折します。ただ、タンパク質と食物繊維で先に腹を埋めておくと、締めに向かう気力が自然と減るという実感はあります。引くために足す、という順番なら、まだ勝ち目があるほうだと思っています。
食事は材料、眠りは環境との掛け算
ここまで食べ物の話をしてきましたが、当然ながら、晩ごはんだけで夜が決まるわけではありません。
どんなに整った食事をとった日でも、寝室が明るければ目は冴えるし、枕が合わなければ首が痛い。逆に、環境をどれだけ整えても、締めのラーメンを食べた夜は午前3時に喉が渇く。材料と環境、どちらかが欠けると成立しないタイプの話です。
この調査を読んで個人的にいちばん腑に落ちたのは、眠りが「夜の営み」ではなく「一日の合計」だという感覚でした。昼にどう動いたか、何を食べたか、どんな明かりのなかで過ごしたか。その積み重ねの結果として、夜がやってくる。ベッドに入ってから頑張れることは、実はそんなに多くありません。
だからこそ、日中に少し休んでおくことにも意味があると考えています。15分から20分、目を閉じて何も見ない時間をつくる。それだけで午後の輪郭がだいぶ変わります。私たちがお昼寝の道具をつくっているのも、そのあたりに理由があります。
眠りは、夜の8時間だけの話ではない
今回の調査が良かったのは、日本人のデータをもとにしている点です。海外の研究を読んで「そもそも食生活が違うしな」と割り引いていた部分が、今回はほとんどありません。サバの塩焼きも納豆も、そこに含まれている。
食べたものが眠りの記録に残る、というのは、考えてみれば当たり前の話です。ただ、当たり前だと思っていたことに数字がつくと、途端に扱いが変わる。今夜のメニューを決めるときに、頭の片隅に「これ、今夜の自分に返ってくるな」という一行が浮かぶようになった。個人的にはそれがいちばんの収穫でした。
とはいえ、締切明けのカップ麺をやめる気は、今のところありません。あれは睡眠と引き換えに手に入れる何かなのだと、今は納得したうえで啜っています。
参考:Seol J, Iwagami M, Kayamare MC, Yanagisawa M.「Relationship Between Macronutrient Intake and Sleep Quality Using Data From Two Smartphone Applications」Journal of Medical Internet Research(2025年1月30日)/筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構 プレスリリース





